子育て

産後の悩みを抱えているすべてのお母さんへ、助産院に相談という選択肢を届けたい。麻の葉助産院 木藤雅子さん

自分の体調の変化に戸惑いながらお腹の中の命を守り育む10ヶ月、不安と痛みの波の中、赤ちゃんと気持ちをあわせ持てる力の全てを絞りきる出産、そして身体へのダメージが癒えぬまま始まる24時間のすべてを我が子に捧げる日々。

妊娠、出産、そして産後の育児は、経験してみないと分からない幸せで驚きに満ちた特別な体験です。特に、産後1年のお母さんの生活は話には聞いてはみるものの、なかなか産前には想像がつかないもの。

時には涙を流しながら、必死に毎日を過ごした経験をお持ちのお母さんも多いのではないでしょうか。

今回は、産後のお母さんと赤ちゃんの1年に寄り添い続ける、助産師木藤雅子さんにお話を伺いました。

木藤さんのメッセージが、1人でも多くの孤独な子育てをしているお母さんと、お母さんを支えたいと望んでいる方へ届くことを願います。

お母さんが幸せになったら世の中はきっと良くなる

photo by きょんぴー

「元々、勤めていた産婦人科(現在は閉院)の院長の口ぐせなんですが、”お母さんが幸せになったら、家の中が幸せになる。幸せな家が増えたら、世の中はきっとよくなる”という言葉。私自身にどこまで貢献できているかは分かりませんが、そういう想いでお母さんたちに出会い続けています。」そう穏やかな口調で語り始めた木藤さん。

総合病院で臨床経験を積んだ後、行政職員として県保健所や看護学校で、また出産、育児を経て個人経営の産婦人科医院にて、長年、産前産後のお母さんの相談業務、お産に関わってきました。

行橋市稲童で2018年より訪問専門の助産院を開業。現在は、他に行橋市とみやこ町にて産後の行政サービスを伝える役目の個別訪問スタッフとして、また個人経営の産婦人科医院にて夜勤専門の助産師として、3足のわらじを履いています。ご自身も3人の子どもを育てているお母さんです。

まだまだめずらしいフリーランスの専門職としてお忙しい日々を過ごされる木藤さん。50代になってようやくやりたい仕事が分かってきたと話します。
「自分の体力と家庭を維持する事が一番大切。母が外で働く事のバランスと向き合っています。」とのこと。どんなに忙しくても週に1回の陸上部の活動には欠かさず参加するようにしているそうです。

開業助産師になるという選択

開業しようと思ったきっかけ

元々、医療現場で働いてきた木藤さん。開業することは考えていなかったそうです。今の働き方を選択されるきっかけは何だったのでしょうか?

「きっかけは、産後のお母さんの死因の1位は自殺であり、2年間で92人ものお母さんが出産後1年未満で自殺しているという記事を読んだことでした。今も、持ち歩いています。ショックでした。
産後うつのお母さんをサポートをしようと、定期的にアンケートをとったり、行政と医療機関で情報共有などをして以前より連携は強くなっています。それでも、こぼれ落ちるお母さんがいる。何とかして命を救う方法があったのではないだろうかと。それから訪問専門の助産院を開業することを考え始めました。」

木藤さんが常に持ち歩いている新聞の切り抜き。

行政でも、医療機関でも、働いた経験があるからこそ、助産師として必要なケアを届ける範囲には限界があると感じた木藤さん。実際にお母さんと赤ちゃんの暮らしを見て、何に困っているかを把握し、お母さんの想いに沿った、本当に必要とされているアドバイスをしたいと開業することを決心します。

開業してみて、また行政の個別訪問の仕事をしてみて、出会えるお母さんの幅がグッと広がったといいます。最初は泣いていたお母さんが、木藤さんのケアを受けて帰る頃には少し落ち着いて安心した笑顔を見せてくれる瞬間が、この仕事の最もやりがいのある瞬間だと感じているそうです。

相談してほしい〜おっぱいのこと〜

実際のお仕事のこともお聞きしました。訪問の助産師さんはどんなことをしてくれるのでしょうか。

「1番お手伝い出来るのはおっぱいに関することです。特に産院でミルクを足しながら授乳していて、授乳が軌道に乗る前に退院したお母さん。入院中は毎回体重を測りながら、母乳とミルクの量を決めますが、自宅に帰った途端に量が分からなくなってしまう。
それでいて、健診の時に、対応した方から飲ませる量が多すぎるとか少なすぎるとか言われてしまって・・・。自分を責めてしまい、育児の全般に自信を無くしてしまうお母さんは本当に多いんです。」と、曇り顔で話す木藤さん。

木藤さん自身は完全母乳保育を推奨することも、完全ミルク保育を推奨することもしないそう。あくまでも大切なのは「お母さんがどうしたいか」、そしてその選択が「今の暮らしぶりの中で継続可能かどうか」、この視点でアドバイスを行います。決して無理強いはしません。

乳腺炎などのトラブルに対しておっぱいマッサージも自宅で受けられます。痛みと熱があるなか、どこで対応してくれるか情報を探すところから始まり、子どもを連れて医療機関を受診するのはとても大変なので、これは有り難いですね。その他、授乳のスケジュールや、断乳、卒乳の方法、時期をどう決めるかなど、おっぱい全般の相談は子どもが何歳になっても対応しているそうです。

相談してほしい〜お母さんと赤ちゃんのこと〜

「次に多いのが、赤ちゃんや育児に関する相談です。初めての赤ちゃんとの生活。何で泣いているのか分からない、衣食住に関わるものは何を選んだらいいのか、お母さんの体調のゆらぎへの対応の仕方、周りへのサポートの依頼方法など、お母さん自身のこだわりと暮らし、赤ちゃんの性格や体質にあった提案をしていきます。必要なら、医療機関や行政の相談機関に繋げることも念頭にいれてお話を聞きます。」とのこと。さすがのご経験と専門職ならではの視点です。

木藤さんご自身も出産、育児と仕事を両立しながら、長年多くのお母さんと赤ちゃんを見てきたからこそ、孤立して悩んでいるお母さんの力になりたいという強い想いを感じました。お話を伺いながら、ライターである私自身の産後1年、授乳が軌道に乗るまでの数ヶ月は毎日悩んだこと、繰り返した乳腺炎、赤ちゃんのものを決めるのに何時間も迷ったり、パートナーとの育児に対する考えの相違があったことなど・・・、数々の思い出がよみがえり、思わず目頭が熱くなりました。あの時、安心して相談できる場所があったなら、もっと明るい気持ちで自信を持って育児が出来たに違いありません。

産後の悩みを抱えているすべてのお母さんへ、助産院に相談という選択肢を届けたい。

木藤さんのサポートを必要とするお母さんは京築にまだまだたくさんいるのではないでしょうか。でも、私もそうだったように、開業助産師さんに相談という選択肢は、なかなか思いつきません。

開業助産院に相談という選択肢があることを、まずは知ってほしい

「私を必要とする全てのお母さんへ、必要なサポートを届けたいという願いがあります。産前は出産そのものへの不安が強く、産後の生活まで気が回らないものです。準備のないまま産後の生活に突入してしまうと、慣れない育児に追われて助けを求める方法を探すことさえも出来ないまま、孤立してしまいがちです。仕事に復帰となるとお母さんは本当に多くのことを同時にこなさないといけない。
出生届けを提出する際に役場でチラシを配ってもらったり、ホームページやSNSで発信したりしていますが、十分に情報が伝わっているとは言えません。」と残念そうに教えてくれました。

京築地域はお産に関わる医療機関の所在地に偏りがあり、自宅の近くで出産できる人ばかりではなく、確率は低くとも、状況によっては北九州へ救急搬送されてしまう例もあるとか。そういうお母さんは、産後、不安なまま自宅に帰り、距離があるため医療機関にも気軽に相談が出来ず、心細い思いをしているのではないかと木藤さんは続けます。

出来ることなら産前から妊婦さんの身体作りや下着の選び方、お勧めの過ごし方など衣食住全般の相談も受けていきたいと考えているそうです。

また、木藤さんによるとお母さんたちが気軽に助産院に相談できないのには、もう1つ大きな理由があると言われます。

社会的な仕事をするお母さんにこそ、費用面でのサポートを

お母さんたちが助産院へ気軽に相談できないもうひとつの理由、それは、収入がないことへの負い目から費用面の負担に躊躇してしまうことなんだそうです。

「育児、子育て、家事というのは、報酬こそ発生しませんが、最も基本で重要な社会的仕事です。本来ならば家庭を回すお母さんにこそお金を投入すべき。稼いでないから、なんて引け目を感じる必要なんてないはずです。」こう力を込めて語る木藤さん。

お母さんたちが安心して子育てを出来る地域にするためには、行政が産後ケアの相談の費用面の負担をすべきと考えた木藤さんは、行動を起こします。なんと京築中の役場にお手紙を書いたそうです。

木藤さんの想いが、ある1人の市議の目に留まり、担当課職員を、さらには行橋市を動かし、その結果、行橋市在住のお母さんは助産師による産後のケアに対して費用面でのサポートが受けられるようになりました。

行橋市在住の方は、木藤さん含む産後の訪問ケアが1年間、1回1000円/3時間で受けられます。詳しくは市のホームページをご確認ください。http://www.city.yukuhashi.fukuoka.jp/doc/2020090100068/

お母さんが幸せな社会を目指して

お母さんと赤ちゃんのことを思うだけでなく、実際に行動も起こしている木藤さん。それでも、まだお母さんと赤ちゃんに対する社会的なサポートは不十分だと感じています。

「産後ケアに対する専門職介入に対する行政の費用のサポートが得られるのは京築の中では、まだ、行橋市だけです。よくありがちな、出産祝い金としてただお金をばらまく方法ではなく、きちんと産前産後のサポートにも目を向けた政策をお願いしたい。そうじゃないと、お母さんは安心して2人目3人目と考えられません。」と意気込みます。

「もっと情報を発信して、京築のお母さんたちやお母さんをまず助産院という場所、木藤雅子の存在を知って欲しいです。さらに、実績を積んで、相談してよかったと思うお母さんを増やしていきたいと思っています。

そして、今後行政の理解を得ていくために、できることなら民意から生まれた議員さんたちとこの課題について話していきたいと願っています。お母さんが幸せだときっと社会もよくなっていくから。これからも働きかけていきます。」と力強いメッセージを受け取りました。

全ては赤ちゃんの健やかな成長のために。

 

<参考記事URL>
妊産婦死亡、自殺が1位 成育医療センター調査,日経新聞,2018
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35015020V00C18A9CC1000

木藤さんのサポートが向いているのはこんな人

・毎日のおっぱいやミルクの量で悩んでいる人
・乳首が短い、扁平で授乳が上手くいかない、おっぱいが出過ぎるなど、おっぱいのトラブルを抱えている人
・産院で乳頭保護器を勧められたけど、外したい人
・自分なりの育児へのこだわりが強い人
・家族や、出産した産婦人科と育児の考え方が違っていて相談できる場所がない人
・からだがきつく、気持ちが沈みがちな人

初診料  1000円
各種相談 2000円〜/1時間(時間帯によって変動あり)+交通費
詳しくは、ホームページにて。

麻の葉助産院概要

店名 麻の葉助産院
ジャンル 訪問専門の産前産後ケア
住所 福岡県行橋市稲童
診療時間 電話受付9時〜17時 訪問は24時間対応
営業日 完全予約制 訪問は年末年始も対応
ホームページ http://midwifemap.com/asanoha-kitou/mysite/
instagram 麻の葉助産院

 

ABOUT ME
あずにゃん
あずにゃん
長野(諏訪市)生まれ、長崎市育ち。 学生時代は関西、その後、就職で筑豊へ。従業員3000人超の医療現場に10年務めたのち、結婚を機に京築へ移住。 初めての土地で初めての育児、地元の子育て情報が少ないことに大いに悩んだため(今も悩み中)、同じような新米ママへ情報を届けたくて、ライターになる。 現在、2歳の男の子育児に奮闘中。 好きなこと、新しいこと・新しい体験・新しい出会い、緩和ケア、YUKI。