暮らし

竹製ハンガーの作り手は「アイデアを形にする」名人

行橋でまた1人、ものづくり経験が豊かな方に出会いました。京築ママライターあゆみです。
行事にお住まいの小澤正人さんが作る「竹製ハンガー」のお話を伺いに工房を訪ねましたが、そこで竹製ハンガー以外にもユニークな創作物をたくさん目にしました。
「自由人」と自分のことを表現する小澤さんの不思議空間で、私が見たこと聞いたことを紹介します。

真竹で手作りハンガー

竹製ハンガー4本小澤さん作の竹製ハンガー。よく見ると、少しずつデザインが違う。

地球環境において、プラスチックが問題になっています。日本のプラスチックの排出量は、アメリカに次いで第2位といわれています。燃やすと二酸化炭素を多く発生するため、地球温暖化の問題に深く関わります。またこのまま規制しないでいると、2050年までに魚の重量を上回る量のプラスチックごみが海洋を占めるとの予測もあります。さらにプラスチックの原料は石油。いずれ枯渇してしまう資源をあてにする暮らしは、変えていく必要があります。

環境省と経済産業省では、2020年のレジ袋有料化に続き、第2弾として「特定プラスチック使用製品」についての規制案を検討しています。「特定プラスチック使用商品」に上がっているのは、次のような製品です。

  • 飲食店やコンビニ・スーパー:プラスチック製のフォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー
  • ホテル・旅館:歯ブラシ、ヘアブラシ、くし、使い捨てかみそり、シャワーキャップ
  • クリーニング店:ハンガーと衣類カバー

そのような背景もあり竹製のハンガーという発想は、今の時代にあっているなと思います。

小澤さんに、竹製ハンガーを作るきっかけになったことを聞いてみました。
知人の小学生の子どもが夏休みの宿題に何を作ろうか考えていたので、子どもでも簡単に作れる竹製のハンガーを思いついたのだそうです。

ちょうど日本でも2020年7月からプラスチック削減のため、スーパーやコンビニの袋が有料になりました。2022年4月からはクリーニング店のハンガーも有料になります。竹製のハンガーなら傷んだら新しい竹に取り替えて、金属のフック部分は再利用できるので良いのではないかと考えた小澤さん。

細部にこだわった数種類の竹製ハンガーを見せていただきました。

竹製ハンガーは衣服が滑りにくい竹製ハンガーに衣服をかけてみると、ツルツルした繊維でも滑らない。

ツルツルの生地でも滑りにくい竹製ハンガーは、ワイヤーや細いプラスチックでできたハンガーよりも幅があって、なかなかの使い心地です。

なぜ他の木材ではなく竹?

京築に暮らす人なら察しはつく「竹やぶ問題」です。高齢者の多い地域では、どんどん育つ竹に恐怖すら感じるといいます。家の床や壁まで突き破って成長するほど強い竹は、毎年3メートルほど地下茎を伸ばして増えていきます。家のすぐそばに竹やぶがあると、必要に応じて竹を切らなくては家が壊れてしまいます。
都会生まれ都会育ちだった私には、「たけのこ掘り」と聞くとただ楽しいレジャーでしかなかったのですが、竹やぶを管理する人にとっては毎年必ずしなければならない「仕事」です。

竹林竹の成長は早い。遠くにいて眺める分にはいいが、竹林の横に住むとなると話は別。

放っておくとどんどん増えていく竹は、やがて周りの木々を枯らしていくそうです。そのため毎年、竹の伐採が行われるのですが、切り出した竹の有効活用ができれば素晴らしいですね。その一つが竹製ハンガーです。

竹製ハンガーの良いところ

小澤さんに、竹製ハンガーの良いところを聞いてみました。

材料が手に入りやすい

竹は毎年伐採されるので(伐採する人が必要ですが)、材料は豊富にあるという点。竹製ハンガーは真竹を使いますが、1本の真竹でハンガー20〜30本分が取れます。

子どもでも作ることができる

竹製ハンガーは真竹からハンガーの材料の切り出し加工さえすれば、あとは小学生の子どもでも、家にあるものを使って簡単に作ることができます。竹を曲げるには、ろうそくの炎で炙るだけでOK。小さなお子さんは、大人と一緒にしてくださいね。

ハンガーが傷んだら取り替え可能

ハンガーのフック部分は取り外しができるような細工をしているので、竹の部分が痛んでしまったら新しい竹と交換すればまた使えます。再生可能な日用品は、今の時代にぴったりです。

竹の伐採時期に注意!
竹は虫がつくので、虫がついていない9月〜12月中に切るとよいのだそうです。

実際にろうそくで竹を曲げるところを、小澤さんに見せていただきました。炙る時間は竹の内側が7割、外側が3割がよいそうです。熱をかけたところは黒くなりますが、サンドペーパーで擦るときれいになります。
(撮影は素人なもので、雑になっています。すみません><;)

商品化の予定は?

お話を聞いているうちに気になったので、今後竹製ハンガーを商品化する予定があるのかたずねてみました。
今は商品化については全く考えていないそうですが、竹に関してもっと大きなアイデアがあるのだというのです。

若手がやる気になってくれたらいいなぁと語った内容は、孟宗竹を工業的に利用するというもの。孟宗竹で集成剤を作って建材の一部に使うなどの利用ができるのではないかというお話でした。
建築関係の仕事をしている私の夫に聞いてみると、建築材料として使うには竹は燃えやすいため、その問題をなんとかクリアするか、使う場所を考えればよいのではとの意見でした。
竹の有効な活用法を考えるのは、地域起こしにもなりそうだねと、話は盛り上がりました。
どうですか?京築在住の人や、こちらへ移住をして、竹の有効利用について小澤さんと話し合ってみませんか?

小澤さんってどんな人?

「ところで小澤さんは何をしている人?」
竹製ハンガーのお話を伺いながら、ムクムク湧いてきた疑問をぶつけてみました。

小澤さんは工業系の大学を卒業し、今は工業系の知識をベースにして、手広く技術的なこと(制作や修理)をしています。なんでもするので、工房に訪れる人たちからは「何でも屋さん」と思われているようです。
これまで制作したものを見せていただきましたが、どれもちょっとした工夫があって「あるようでない」ちょっとした便利な機能が備わっているのです。よくこんなアイデアが浮かぶなぁとびっくりしました。寝るときやお風呂に入っている時など、アイデアがふっと浮かんだりするそうです。

工房には常連さんがいて、いろんなお話が聞けました。
小澤さんは「思いついたらすぐに行動する人」、「地域のために力を尽くす人」、「人のアドバイスを取り入れる柔軟さがある」などと大絶賛。「この工房にはなんでもある。ないのはお金だけ」というジョークも飛び出し、和やかな雰囲気。
この工房には毎日多くの方が訪れるそうです。多くが「各方面の専門家」で、遠くからもフラリと現れるそうです。

古い塔時計の修理

塔時計の修理40年ほど前のものと思われる、塔時計の修理依頼がきた。簡単な作りだけれど、これを作った人はすごいとのこと。

取材の日、大きな時計板が置いていました。ある人からの修理依頼で、中を開けてみると40年ほど前の作りでシンプルだけれど、みる人がみたらすごい仕掛けになっているそうです。2人で修理を試みたそうですが、苦戦中。仕組みはわかっても、調整の仕方がわからないのだそうです。「修理の仕方がわかる!または我こそは!という人はぜひ訪ねてきてください!」と小澤さん。

塔時計の修理を一緒にしませんか。修理は簡単にはいかなさそう。そこで一緒に修理をしてくれる人がいたら来てください!と小澤さん。

屋外設置型折り畳み式ごみ箱(実用新案登録)

小澤さんが考案した屋外設置型のゴミ箱は、今までにない仕組みをおよそ8年かけて実用化しました。折り畳むと15cm程度の薄さになり、イベントがある時など、コンパクトに畳めるので車に積んで運びやすいです。

折り畳み式ゴミ箱は折り畳むと15センチになる小澤さんが考案した折り畳み式ゴミ箱は、折り畳むと厚さわずか15cm。イベント会場に車で運ぶのにも都合が良い。

ゴミ回収の方の負担が減るようにと、ゴミの取り出し口を上からだけではなく、左右も開くようにしています。蓋は完全に開ききるので、蓋を支えながらゴミを開く必要はありません。

折り畳み式ゴミ箱の蓋にはイラスト折り畳み式ゴミ箱の蓋部分には、イラストが。一番前は小澤さんの絵。子どもたちが描いた絵もある。

そしてゴミ箱には、子どもが描いた絵や小澤さんが描いた絵。子どもにとっては、自分の絵が屋外のゴミ箱に描かれているのを見るのは嬉しいと思います。

その他のアイデア品

過去にはイノシシ・鹿・カラス撃退機が話題になり、約1,300機売れたのだそうです。仕組みは猪の悲壮な声を録音し、その音声をスピーカーから流すというもの。畑を動物に荒らされて困っている時に使うと、動物を傷つけずに追い払うことができます。

空間や小物を殺菌できる道具を制作。空間や小物が簡単に殺菌できる道具も小澤さん作。

他には紫外線ライトを使った空間や小物の殺菌機、太陽光発電を利用した電気代ゼロで動かす肥やし作り機、パンや味噌作りに便利な発酵機、煉瓦造りの本格ピザ窯など、バラエティに富んだものづくりをしています。

私が特に興味を持ったのは、ピザ窯と肥やし作り機です。家庭用の生ゴミを入れて肥やしを作る装置は販売されていますが、生ゴミは水分が多すぎるのだそう。既製品で不満なところを、なんとかしたいと思う気持ちが原動力にもなっていそうです。

工房は不思議空間

花と景色の絵画小澤さんの描いた絵。

取材でお邪魔した小澤さんの工房は、不思議がいっぱいでした。四方の壁にはずらりと絵画が飾られていて、そのほとんどが小澤さんが描いたもの。入口の扉前には作りかけの看板もありました。

絵画小澤さんの絵は、四方の壁にたくさん飾られている。

部屋の中にある棚や机は小澤さんが作ったもので、なんとこの工房、元は牛舎。小澤さんが自分で工房に作り替えたのだそうです。キッチンもあって、「好きなことをする城」としては快適な空間なのではないでしょうか。
来るもの拒まず、去るもの追わず。普段はいろんな人がやってきて、長時間過ごす人もいるそうです。

「今日は何があるのか、誰が来るのかわからない」
そんなワクワク感で毎日を過ごしているからなのか、小澤さんの生き生きとした笑顔が印象的でした。

ネコのぺぺ小澤さんの工房にいる、ネコの「ぺぺ」。なかなかの貫禄。ママライターを品定め(汗)

工房には人間以外に、ネコの「ぺぺ」 (ウルグアイの世界一貧しい「元」大統領の愛称と同じ)がいます。ぺぺは私を見て「新入りだな」という顔をして近づき、しきりに私の足に体を擦り寄せていました。

いつか私も電気代ゼロで動く肥やし作り機を作ろうと思います。今は塔時計がいつ直るかがとても楽しみです!

ABOUT ME
あゆみ
美容&医療ライター、美容・医療分野記事広告類の法令チェック・リライト、記事の編集・校正・校閲、薬事コンサルティング、西日本新聞社発行の地域情報紙「ファンファン北九州」ライター。過去に臨床検査技師から研究開発職にキャリアチェンジし、化粧品開発者として10年勤務後、大学で法学を学ぶ。 商業出版を経験『ピーターラビットで学ぶ!英語イメージ楽読術』(主婦の友社 2014年)、現在はブックライターとしても活動。尼崎市出身、行橋市在住。「英語絵本の会」代表。