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「姥が懐」の清掃を通して見えた行橋の自然を守る活動

行橋に残る美しい景観を守り、次世代に残す活動に取り組んでいる団体「豊の国海幸山幸ネット」にお話を伺い、清掃活動にも参加してきました。

大好きな行橋の自然を守り、伝えたい

行橋市の海岸といえば長井浜がよく知られていますが、沓尾の海岸を訪れたことはありますか?Googleマップで見ると、長井浜の少し上あたりに「姥が懐(うばがふところ)」と表示されているところが沓尾海岸です。
地図_姥が懐
沓尾の海岸は、人工的な改変がされていない「自然海岸」だそうです。瀬戸内海に残る自然海岸の状況は厳しく、環境省の調査では第5回(平成8年度)の自然環境保全基礎調査で、残存する自然海岸は36.7%と報告されています※。

※参考:自然環境に関する情報(せとうちネット)

そんな貴重な沓尾の海岸ですが、実は千年以上前から神事が行われている大切な場所でもあるのです。

毎年2月末日〜3月1日未明、英彦山神宮のお潮井採りが行われるのがこの海岸です。禊場(みそぎば)となるのがGoogleマップに表示があった「姥が懐」で、高さ1.5メートルほどの岩窟になっています。

姥が懐(禊場)姥が懐

毎月第2土曜日に「豊の国海幸山幸ネット」の人たちが姥が懐と砂浜の清掃活動を行い、できる限り自然なままの状態を次世代へ引き継ごうとしています。

姥が懐は道路工事で海岸と共に消える計画だった

美しい景観はいつまでもそこに存在する保証はなく、何もしないでいると時代の流れとともに消えていく危険性があります。古くから神聖な場として大切にされていた姥が懐は海岸の大部分とともに、道路建設の際に埋められる計画になっていました。

その計画に早い段階から気づけたのは「豊の国海幸山幸ネット」の前身である「赤べんちょろの会」が、沓尾海岸の清掃と海の学習会を年に一度開いていたからです。道路を作るために海岸の一部を埋める工事の計画があることを知ったのは、2005年(平成17年)でした。

緑泥片岩砂浜と緑泥片岩で形成された自然海岸。魚付林もある環境。

海岸は砂浜と緑泥片岩(りょくでいへんがん 別名:周防変成岩)で形成されています。全く人の手が加えられていないこの海岸は、神聖な場所として千年も前から地元の住人が大切に守ってきた場所でもあります。「赤べんちょろの会」の代表だった森友敦子さんは、計画を知ったとき、なんとしてもここを守らなければならないと決意しました。

沓尾の海岸を守る運動

工事の一部変更を求める署名活動の先頭にたち、沓尾の海岸を残す重要性を広く訴えました。この出来事をきっかけに、1999年から活動していた「赤べんちょろの会」を「豊の国海幸山幸ネット」に名称変更し、さらなる飛躍を目指しました。

豊の国海幸山幸ネットの皆さんと沓尾海岸の模型九州大学の島谷教授(当時)の創作「沓尾海岸の模型」と、現在のみなさん。

専門家を招いて地域づくりのシンポジウムや姥が懐のワークショップを開催して、参加者の関心と理解を高めました。沓尾海岸を残すことができた後も、英彦山お潮井採りマップや壁新聞を発行。壁新聞は2000年から続いていて、今も行橋駅に掲示されています。「知っちょる?行橋」という壁新聞、駅利用者なら目にしたことがあるのではないでしょうか?ぜひ一度、じっくり見てみてください。

壁新聞行橋駅東口の掲示板に壁新聞があります。

「豊の国海幸山幸ネット」の3大事業

「豊の国海幸山幸ネット」では、次の3つの事業に力を入れています。

豊前海キャンドルナイト(年1回開催)

今年は10月19日(土)に開催が決まっています。長井浜公園内芝生広場、14時スタートです。(雨天は行橋市立今元小学校体育館)夕方までは行橋弁バージョンのラジオ体操や音楽コンサートを楽しめます。
16時20分にキャンドル点灯と抽選会。
17時からは神楽の紙芝居、17時半からは今井神楽が始まります。
19時からはキャンドルが灯った幻想的な空間で波の音を聞きながら海ヨガをします。
ぜひお出かけください。

豊前海キャンドルナイト10月19日(土)豊前海キャンドルナイト@行橋市長井浜公園内芝生広場

親子で学ぶ生き物探検隊(夏・冬開催)

今年の夏の「親子で学ぶ生き物探検隊」は8月5日(月)でした。暑さの中、祓川の生き物を観察し、多様な生き物が自然の中で育まれる不思議を学びました。
この時の様子は、行橋駅の壁新聞2024年秋号に掲載されています。前を通りがかったときに見てみてください。

姥が懐の清掃活動(毎月第2土曜日)

海岸の清掃活動9月14日(土)も、朝8時からたくさんの人が集まり、清掃しました。

毎回たくさんの人が集まり、海岸のゴミ拾いをします。流れ着いたゴミや流木などを集めると、かなりの達成感。
海岸の清掃活動
朝8時からのスタートで潮風が吹いているとはいえ、やはり直射日光の中の作業は大変です。上を通る道路の影が避難場所になっているという巡り合わせ、不思議です。

9月の清掃は台風が去った後で、普段よりもたくさんの流木やゴミが目立ちました。また姥が懐にはたくさんの砂が入り込んでいました。この砂をかき出す作業も必要だそうです。

長く続く活動の根っこにあるもの

姥が懐の清掃活動2024年9月の清掃活動。姥が懐の前で。

この取材を通して感じたのは、地元の発展・利便性を否定するのではなく、発展を願いながらも地元の自然や文化を守り次世代に残せるようなバランス感覚を持ち、活動されている姿勢でした。この感覚は日々環境のことに関心を持ち、活動の中で学びを続けているからこそ持てるものだと思います。

だからといって気負いすぎると疲れてしまい、長続きしません。参加者の1人が「ゆる〜い雰囲気が居心地よい」と話してくれました。信念を持って気長に取り組むからこそ、振り返ると多大な功績が残っているのかもしれません。意図して残すというよりも、結果として残せた、という印象でした。素晴らしい活動です。

ABOUT ME
あゆみ
美容&医療ライター、美容・医療分野記事広告類の法令チェック・リライト、記事の編集・校正・校閲、薬事コンサルティング、西日本新聞社発行の地域情報紙「ファンファン北九州」ライター。過去に臨床検査技師から研究開発職にキャリアチェンジし、化粧品開発者として10年勤務後、大学で法学を学ぶ。 商業出版を経験『ピーターラビットで学ぶ!英語イメージ楽読術』(主婦の友社 2014年)、現在はブックライターとしても活動。尼崎市出身、行橋市在住。「英語絵本の会」代表。