暮らし

無農薬・無肥料の自然農法で暮らす【みやこ町犀川鐙畑】


自然農法の田畑と手作りピザ窯を見に、10月18日のよく晴れた日、京都郡みやこ町犀川鐙畑(さいがわ あぶみはた)へ行ってきました。京築ママライターのあゆみです。関西から行橋に来てもうすぐ10年になろうとするのに、鐙畑という地名を聞いたこともなかった私です。取材した方のご紹介で、この度素敵な出会いに恵まれました!

山の道、狭い坂道を通って鐙畑へ

あそこまで急で狭い道を通ることを知っていたなら、行くことを躊躇したかも知れませんでした。何にも知らず、ただ「不安になってもどんどん進んでいったらいい」という言葉を信じ、ひたすら山道を登っていきました。
頼りのGoogleマップによるナビでもわからなくなり、小さな橋の手前で車を止め、自分が目的地に向かっているか確認しようと思いました。けれど人がいないから誰にも聞けない!道が狭すぎてUターンできず、仕方がないので徒歩でしばらく山を降りて行き、人を探しました。幸い、今からお散歩に出かけようという感じのご夫婦を見つけ、道を尋ねました。住所で聞くよりも、尋ねる先の人の名前を伝えた方がわかってもらえるという場所。大体想像できますか?

一時はヒヤヒヤしましたが、無事目的地へ着くことができました。光合成が感じられるほど空気が澄んだ山の中に、原田ルミさんのお宅があります。へなちょこな運転でえっちらおっちら登ってきた私を、素敵な笑顔で迎えてくれました。

初めて知った無農薬・無肥料の自然農法、驚きの連続

到着してすぐ、畑へ連れて行ってもらいました。犀川小学校2年生のけんちゃんが作っている畑を見せてくれるというのです。ついていくと、入り口にかわいらしい看板が。

けんちゃんへの取材もしましたので、後ほどけんちゃんの農園とともに紹介します!

入り口から入ると草で覆われた畑が目に飛び込み、若干びっくりしましたが、お話を聞いて納得しました。これが自然農法だったのです。無農薬、無肥料で育てるということはどういうことか、お話を聞いているうちに、徐々にわかってきました。

お話を聞くまでは、「無肥料で農作物は育つの?」とか「無農薬は賛成だけど、虫がついたりしない?」とか、一般の人が抱く疑問を持っていました。

その場所に適した野菜が周りとの調和で育つ


言葉の使い方が適しているか、私は農業に関して素人なので分かりませんが、原田さんのお話を聞いて私なりに理解できたことをお伝えします。
植えている農作物以外の草を私たちは雑草と呼びますが、自然農法では雑草は基本的に抜かないのだそうです。雑草が土を肥やし、土を柔らかくしてくれるのだそう。だから農作物の収穫後、次の季節の農作物を植える前に畑を耕して、新しい畝(うね)を立てることはしません。驚いたことに、夏野菜がまだ残っている状態で、その根本に秋野菜の苗を植えるのです!こんなのを見たのは初めてで、びっくりしました。

原田さんは自然農法を始めて8年。これまでの経験で、その土、その土地に適した野菜(よく育つ野菜)があると教えてくれました。雑草は基本的に抜かないけれど、縦にグングン伸びる草があれば、上だけ刈るそうです。そうすると、根を張る力が衰えて農作物に悪影響を与えないのだそうです。そうやって、適宜手を加えることでコントロールしているのであり、植えっぱなしで放置しているわけではありません。

なぜ肥料を与えなくても農作物が育つのか

私の身長(150cm)を遥かに超えて成長しているオクラにびっくり。

農作物を育てるのに必要な3大栄養素といえば窒素、リン酸、カリウムです(*1)。このうち窒素は、そのままの形では植物が栄養として利用することができず、土壌に住むバクテリアが窒素を植物が取り込める形(硝酸イオンやアンモニウムイオン)に変換してはじめて植物に取り入れられます。これを「窒素固定」といい、マメ科植物の根っこに共生している根粒菌は窒素固定を行うことが知られています。マメ科植物を植えると土が肥えるというのは、窒素固定によって植物が利用できる形の窒素へ変換してくれるからです(*2)。

うまくバランスの取れた自然界は、植物が生育するために必要な栄養素が土壌に過不足なく含まれています。そのためあえて肥料を与えなくても、作物は育つことができるというわけです。人間に置き換えて考えてみましょう。栄養分の豊富な食べ物を、体にいいから、または発育にいいからといって、過剰に摂取するとどうなるでしょう。栄養過多になると肥満になり、健康を害してしまいます。植物でも同じことが起きるのです。

「虫が異常発生するのは、自然界のバランスが崩れているサイン」と原田さんは教えてくれました。人間も植物も、似ているなと思います。食べ物が不足すると私たちは栄養失調になりますが、栄養の偏った食事でお腹いっぱいになっても、特定の栄養素が不足して栄養失調になります。バランスの良い食生活を送らないと健康を害するのと同じように、作物もバランス良く栄養素を吸収すると、健康で病気や虫が寄り付きにくくなるのですね。

【参考サイト】
*1: なぜ、肥料をやらないのに作物が育つのか? | 木村式自然栽培(NPO法人岡山県木村式自然栽培実行委員会)

*2: 「根粒菌(こんりゅうきん)ってすごい!!」 | 秋田県立大学

けんちゃん農園の主は小学2年生

けんちゃんが育てているキャベツ。

けんちゃん農園を見せてもらいました。けんちゃんは小学校2年生で、自然農法で野菜作りをしています。畑仕事はほぼ全部、自分でしているとのこと。いうまでもなく、私が家でプランターで作る野菜よりもずっと立派。「自分で作った野菜の味は、他の野菜と比べてどう?」と聞いてみましたが、ちょっと困った顔をして、畑の野菜しか知らないからわからないというお返事。でも野菜は好きで、畑で野菜をちぎって食べるのだそう。

以前別の記事で、野菜を育てることと人を育てることには多くの共通点があると書いたことがあります。小さなけんちゃんは自分で野菜の状態を見て、必要な時に必要な対策をして、その結果を手にしています。これそこ生きた学びだなぁと感じました。失敗したら、それを次に活かして成功につなげる。机上の勉強だけではなく、実際に行動してその結果を見て、次にどうしたらいいのか考えて、次の行動につなげるサイクルを実践しているけんちゃん、すごいです!それをそばで支えるお母さんも、素晴らしいです。やはり子育てと農作物を育てることは、多くの共通点がありそうです。

初めての米作りも自然農法で


原田さんの今年の挑戦は、初めて自然農法で米を作ったことです。畑の次に、田んぼへ連れて行ってもらいました。実はけんちゃん農園から田んぼまで山道を歩いて行くのですが、これが慣れない私にはちょっとした良い運動になりました。ライターという職業柄、パソコンに向かって何か書いている時間が長いので、運動不足。山の中で農業をやるということは、日常的に山道を歩き回るということでもあるのですね。今日のように気候が良ければ「お散歩」と言えるかもしれませんが、真冬の寒さはとても厳しいらしいです。ある冬の大雪が降ったときには、積雪が腰のあたりまであったそうです。

 黒米と緑米を半々に

奥に見える緑色のほうが黒米、手前に見える黒いほうが緑米。

田んぼでは稲が穂をつけていました。ちょうど半分、左右で穂の色が違うのがわかるでしょうか。写真では手前側を占める黒色の穂をつけたほうが「緑米」、向こう側を占める緑色の穂をつけたほうが「黒米」です。籾の色だけ見たら逆じゃない?と思うのですが、籾を開いてみると外側から見た色とは違う色の玄米が現れます。その色で黒米、緑米と呼ばれるのだそうです。

黒米は古代米の一種で、玄米の状態のときにポリフェノール(アントシアニン)という色素が含まれているため、黒色に見えています(*3)。緑米も古代米の一種で、玄米の状態のときにクロロフィルを多く含むために緑色に見えています。緑米はもち米ですが、普通のもち米よりも粘りが強く甘みがあると言われています(*4)。

稲の一部が倒れていているのを見つけた原田さんは、ズンズン田んぼの中に入って行きました。大事に育てた稲だから、自分の子どものような思いなのかなと感じました。農薬と肥料を一切使わずに育てたお米は、どんな味がするのでしょう。

【参考サイト】
*3: 黒米は、どういうお米なのかおしえてください。 | 農林水産省
*4: 古代米:緑米 | 清水町商工会

梅の木も無農薬無肥料で


次に連れて行ってもらったのが、梅の木がたくさんある場所。立派な梅の木はどれも、横に大きく枝を伸ばしています。収穫した梅で作った梅干しを通販で売っているのですが、毎年お客様が楽しみにしてくれているそうです。実は私も少し頂いたのですが、とても大きくて立派な梅干しで、酸っぱくてとても美味しかったです。

とても大きな梅干と、畑でちぎって食べさせてもらった「ひもとおがらし」と柚子胡椒をいただきました。

けんちゃんは梅の木に登って遊んでいます。子どもの良い遊び場であり、大人も農作業を一休みして、お昼におにぎりなんかを食べて綺麗な景色を眺められるスポットです。

ハトムギ・ケツメイシ(ハブ)の畑がそんなところに?

梅の木がある場所の一角に、周りの草と違う草がたくさん生えているところがありました。なんとこれも畑で、ハトムギ、ケツメイシやネギなどを育てています。

ここも自然農法の畑。原田さんがネギを採っています。

ハトムギといえば、ハトムギ茶が有名ですね。ハトムギはタンパク質や必須アミノ酸、ビタミン、ミネラル、食物繊維を多く含みます。女性には「ヨクイニン」として興味がある人が多いかもしれません(*5)。

これがハトムギ。

ケツメイシは種子を取り出して炒ったものを「ハブ茶」といい、健康茶として知られ飲まれています(*6)。

写りが悪いですが、こちらがケツメイシ。細長い実がなっていて、この中に入っている種がハブ茶になります。

【参考サイト】
*5: 今月の園芸特産作物:2月 ハトムギ | 北陸農政局
*6: 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース

手作りのピザ窯


今回原田さんを訪ねたもう一つの目的は、ピザ窯を見ることでした。竹製ハンガー作りで「けいちく暮らし」に紹介した。あの小澤さんのお手製ということで、一度見てみたいと思っていました。
ピザ窯には見たことのある手作りの看板が。

小澤さんの取材をしたとき、作業場の入り口に置いていた制作途中の看板でした。一目見てすぐわかり、なんだか懐かしい再会をした気分になりました。
原田さんに伺うと、このピザ窯でよくパンを焼いているそうです。薪で火を起こし、パンやピザを焼くことに憧れます。農作業をしつつ窯に火を入れて、一仕事終わった後に自家製のパンを食べるなんて、すごい贅沢で幸せなことのように感じました。

田んぼからの帰り道、歩きながら大きな木の枝を見つけては拾っていた原田さん。農園があったところに戻る頃には、写真のように両手に大きな木の枝を持っていました。この枝は薪にするそうです。

後ろを歩いて写真を撮りながら、自然と暮らすことは厳しいこともたくさんあるだろうけれど、なんと豊かな暮らしなんだろうと思いました。休みなしに働く原田ルミさんから、いろんなお話を聞くことができました。ありがとうございました。

鐙畑(あぶみはた)ってどの辺にある?

上のGoogleマップ真ん中あたりに、赤い線で囲った部分があります。そこがみやこ町犀川鐙畑。自然豊かな神々しさを感じる場所です。

ABOUT ME
あゆみ
美容&医療ライター、美容・医療分野記事広告類の法令チェック・リライト、記事の編集・校正・校閲、薬事コンサルティング、西日本新聞社発行の地域情報紙「ファンファン北九州」ライター。過去に臨床検査技師から研究開発職にキャリアチェンジし、化粧品開発者として10年勤務後、大学で法学を学ぶ。 学生時代は英語オンチ、今は洋書オタク。趣味が高じて『ピーターラビットで学ぶ!英語イメージ楽読術』(主婦の友社 2014年)を商業出版。尼崎市出身、行橋市在住。「英語絵本の会」代表。